東京高等裁判所 昭和27年(う)4396号 判決
被告人 森本金二郎
〔抄 録〕
本件訴訟記録並びに原裁判所及び当裁判所が取り調べた証拠を検討してみれば、被告人が原判示水上銅鉛株式会社の事務員であつたこと及び本件火薬類が右会社の火薬庫内に貯蔵して保管されていたことはいずれも極めて明白であり、且つ被告人が右火薬類を発掘して右火薬庫内に収納したのは右会社の社長代理福田龍太及び常務取締役磯部享の指揮命令によつたものであることが推認できるから、被告人の本件行為は右会社の業務に関して行われたものと認めるべきである。ところで、被告人の本件行為当時の法令である銃砲火薬類取締法第二十一条の規定及び同法第二十三条が準用している明治三十三年法律第五十二号法人ニ於テ租税及葉煙草専売ニ関シ事犯アリタル場合ニ関スル法律第一条の規定によれば、法人の代表者又はその雇人その他の従業者が法人の業務に関して銃砲火薬類取締法又は同法に基いて発せられた命令に違反した場合には各法規に規定してある罰則を法人に適用し、法人は従業者らの犯則行為が自己の指揮に出なかつたことを理由に処罰を免れることを得ないものであり、この場合には犯則行為者である従業者らは処罰の対象とならないものと解せられるが、前記水上銅鉛株式会社は行政官庁の許可を受けて火薬類に関する事業を行うものであることが明らかであり、且つ被告人は前記認定のように右会社の業務に関して本件犯則行為を犯したものであるから、右会社が処罰の対象になつても、被告人は処罰の対象になり得ないものといわなければならない。然らば、被告人を処罰の対象とした原判決は事実を誤認し、且つ法令の適用を誤まつたもので、右はいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。
註 本件原判決の認定した犯罪事実は「被告人は、群馬県水上町谷川鉱物採掘業水上銅鉛株式会社の事務員として働いて居たものであるが、二五・一〇・二五不良火薬として廃棄し同町某所に埋没した工業用雷管八六〇〇個を法定の除外事由なく同月末頃発掘しこれを保管所持していたものである。